運送業の原価計算とは?車両別・運行別の採算管理と運賃見直しのポイントを行政書士が解説
はじめに
運送会社を経営するうえで、自社の運送業務にどれくらいの費用がかかっているか、正確に把握できていますか?
売上は確保できていても、燃料費や人件費、車両の維持費などが増加すれば、実際には利益がほとんど残っていないというケースもあります。
特に近年は、燃料価格の変動、ドライバーの人件費上昇、車両価格や整備費用の高騰など、運送会社を取り巻く経営環境が大きく変化しています。
このような状況で重要になるのが、運送業の原価計算です。
原価計算によって車両ごと、運行ルートごとの採算を把握できれば、赤字運行の改善や運賃の見直し、荷主との交渉にも役立ちます。
この記事では、運送会社が知っておきたい原価計算の基本から、具体的な計算方法、実務での活用方法まで詳しく解説します。
1.運送業の原価計算とは?
運送業の原価計算とは、貨物を運ぶために発生する費用を集計し、運送業務にかかったコストを把握することです。
単に会社全体の経費を集計するだけではなく、車両別、取引先別、運行ルート別などに費用を分けて分析することが重要です。
例えば、同じ会社のトラックでも、走行距離や積載率、待機時間、運行回数などによって採算は異なります。
会社全体では利益が出ていても、一部の車両や取引先の仕事では赤字になっている可能性があります。
原価計算を行うことで、次のようなことが分かります。
1台のトラックを運行するために必要な費用
1kmあたり、1時間あたりの運送原価
取引先ごとの収益性
運行ルートごとの採算
現在の運賃で利益を確保できているか
原価計算は、会社の経営状態を正しく把握するための重要な管理業務です。
2.運送業で把握すべき主な原価項目
運送業の原価は、大きく分けて変動費と固定費に分類できます。
① 燃料費
トラックを運行するために必要な軽油などの費用です。
燃料費は走行距離や燃費、燃料単価によって変動します。
例えば、燃費が1リットルあたり4kmのトラックで、1か月に4,000km走行した場合、使用する燃料は約1,000リットルです。
軽油価格が1リットル150円であれば、燃料費は次のようになります。
1,000リットル × 150円 = 150,000円
燃料価格が上昇した場合には、運行原価も増加します。
② 人件費
ドライバーに支払う給与、時間外手当、賞与、法定福利費などです。
運送業では人件費が大きな割合を占めることが多く、原価計算において特に重要な項目です。
基本給だけではなく、社会保険料の会社負担分や各種手当なども含めて把握することが大切です。
③ 車両費
トラックを保有・使用するために必要な費用です。
車両購入費やリース料
減価償却費
自動車税などの税金
自賠責保険・任意保険
車検費用
修理・整備費用
車両費は、車両ごとに管理すると採算を把握しやすくなります。
④ タイヤ・消耗品費
タイヤ交換費用、オイル交換費用、バッテリーなどの消耗品費も運送原価に含まれます。
走行距離や車両の使用状況によって費用が変わるため、車両ごとの記録を残しておくと効果的です。
⑤ 高速道路料金・その他運行費
高速道路料金、フェリー料金、駐車料金など、運行に直接必要となる費用も把握します。
運行ごとに発生する費用を記録しておくことで、取引先や運行ルートごとの採算を確認できます。
⑥ 間接費・一般管理費
事務所の家賃、通信費、事務員の人件費、事務用品費など、運送業務を支えるために必要な費用です。
特定の車両や運行に直接結び付けにくい費用ですが、会社全体の原価を把握するためには欠かせません。
3.固定費と変動費を分けて考える
原価計算では、費用を固定費と変動費に分けて考えることが重要です。
固定費とは?
走行距離が増減しても、一定期間に発生する金額が大きく変わらない費用です。
例えば、次のようなものがあります。
車両のリース料
車両の減価償却費
自動車保険料
車両関連の税金
基本給などの一定の人件費
変動費とは?
走行距離や運行回数などに応じて増減する費用です。
燃料費
タイヤ費
オイルなどの消耗品費
高速道路料金
運行に伴う一部の人件費
固定費と変動費を分けることで、走行距離が増えた場合にどの程度費用が増加するのか、運行回数が少ない場合にどの程度の負担が発生するのかを分析できます。
なお、費用の分類は会社の会計処理や管理目的によって異なる場合があります。実務では自社の運行実態に合わせて整理しましょう。
4.運送業の原価計算の具体的な方法
原価計算を行う際には、まず運送事業に関する売上と費用を整理することから始めます。
国土交通省の手引きでも、運送事業の売上・費用を区分し、車両別の収益や費用を集計したうえで、1kmあたり・1時間あたりの原価を算出し、取引先別や運行ルート別に分析する方法が示されています。
① 運送事業の売上と費用を整理する
最初に、運送事業に関する売上と費用を集計します。
運送業以外の事業を行っている場合には、運送事業に関係する売上・費用をできる限り区分しておくことが重要です。
② 車両ごとの費用を集計する
車両ごとに、燃料費、人件費、車両費、保険料、修理費などを集計します。
車両番号や管理番号を決め、月単位で管理すると比較しやすくなります。
③ 1kmあたりの原価を計算する
車両ごとの費用と走行距離を使って、1kmあたりの原価を計算します。
計算式
1kmあたりの原価 = 対象期間の原価合計 ÷ 走行距離
例えば、1か月の原価合計が600,000円、走行距離が6,000kmの場合は次のとおりです。
600,000円 ÷ 6,000km = 100円/km
この場合、1km走行するために平均100円の原価がかかっていることになります。
④ 1時間あたりの原価を計算する
運行時間や拘束時間に着目した管理も重要です。
計算式
1時間あたりの原価 = 対象期間の原価合計 ÷ 対象時間
例えば、原価合計600,000円、対象時間が300時間の場合は次のとおりです。
600,000円 ÷ 300時間 = 2,000円/時間
走行距離だけでなく、待機時間や荷役時間なども含めて分析することで、時間を要する運行の採算を検討できます。
※上記は計算方法を説明するための簡易例です。実際の管理では、対象とする費用や時間の範囲を統一して計算する必要があります。
⑤ 取引先別・運行ルート別に分析する
車両別の原価が把握できたら、次は取引先別や運行ルート別に分析します。
同じ車両でも、取引先によって積載率、待機時間、荷役作業、走行距離などが異なります。
そのため、車両単位だけでなく、実際の運行内容に応じて原価を比較することが大切です。
5.原価計算を運賃交渉に活用する方法
原価計算を行う大きな目的の一つが、適正な運賃を検討することです。
現在の運賃が十分な利益を確保できる水準なのか、原価と比較して確認する必要があります。
① 現在の運賃と原価を比較する
例えば、ある運行の売上が40,000円、運行にかかる費用が35,000円だった場合、差額は5,000円です。
しかし、この金額から配賦される間接費などを考慮すると、実際に会社に残る利益はさらに少なくなる可能性があります。
運賃を検討する際には、直接費だけでなく、会社を維持するための間接費や必要な利益も考慮することが重要です。
② 原価の根拠を資料にまとめる
荷主との交渉では、単に「経費が上がったので運賃を上げてほしい」と伝えるだけでは、十分な理解を得られない場合があります。
次のような資料を準備すると、交渉の根拠を説明しやすくなります。
燃料費の推移
ドライバーの人件費
車両の維持費
高速道路料金
運行距離・運行時間
待機時間や荷役作業の状況
取引先別・運行別の原価
客観的な数字を示しながら、運送条件と運賃の見直しを相談することが大切です。
③ 運賃と料金を分けて検討する
運送業では、運賃だけでなく、待機時間料、積込料、取卸料、附帯作業料、高速道路利用料金などについても整理する必要があります。
運送以外の作業に時間や費用がかかっている場合には、その内容を明確にして、適切な料金設定を検討しましょう。
また、燃料価格の変動については、燃料サーチャージの導入や見直しも検討できます。
6.原価計算を行う際の注意点
原価計算は、一度実施すれば終わりというものではありません。
次の点に注意して、継続的に管理することが重要です。
① 定期的に計算する
燃料価格や人件費、車両の修理費などは変動します。
少なくとも月単位や四半期単位など、自社で管理しやすい周期を決めて見直しましょう。
② 車両ごとのデータを正確に記録する
走行距離、燃料使用量、運行時間、修理費などの記録が不正確だと、原価計算の結果も正確ではなくなります。
日々の運行記録や燃料購入記録などを活用し、正確なデータを蓄積しましょう。
③ 赤字運行を放置しない
原価計算によって採算が悪い運行が見つかった場合には、原因を分析する必要があります。
例えば、次のような改善策が考えられます。
運行ルートの見直し
積載率の改善
待機時間の削減
空車回送の削減
荷主との運賃・料金の見直し
車両の稼働状況の改善
無理な運行や過度な労働時間によって採算を合わせるのではなく、安全と法令遵守を前提に改善することが重要です。
7.標準的な運賃と原価計算の関係
国土交通省が告示する「標準的な運賃」は、トラック運送事業者が法令を遵守し、持続的に事業を運営するための運賃交渉の参考となるものです。
令和6年3月には、燃料価格の上昇などを踏まえた見直しが行われ、運賃水準の引上げや荷役の対価などが反映されました。
ただし、標準的な運賃は、個々の運送会社の実際の原価そのものではありません。
車両構成、運行距離、積載率、人件費、取引条件などは会社ごとに異なります。
そのため、標準的な運賃を参考にしながら、自社の原価計算を行い、実態に合った運賃・料金を検討することが大切です。
また、2025年6月に公布されたトラック適正化二法では、国土交通大臣が定める適正原価に関する制度が設けられ、公布後3年以内の施行に向けた検討が進められています。
制度の具体的な内容や施行時期については、国土交通省の最新情報を確認する必要があります。
8.運送会社が原価計算に取り組むメリット
原価計算を継続することで、次のようなメリットが期待できます。
車両ごとの収益性を把握できる
赤字運行や採算の悪い取引を発見できる
運賃交渉の根拠資料を作成できる
燃料費や人件費の上昇に対応しやすくなる
車両の入替えや増車の判断に役立つ
経営計画や資金繰りの改善につながる
特に、増車や車両の入替えを検討する際には、現在の車両の稼働状況や採算を確認することが重要です。
売上だけでなく、実際にどれだけ利益を確保できているかを把握することが、安定した経営につながります。
9.よくある質問(FAQ)
Q1.運送業の原価計算は必ず行わなければなりませんか?
原価計算の具体的な方法や管理周期は会社によって異なりますが、適正な運賃設定や経営改善のためには、自社の原価を把握することが重要です。
Q2.小規模な運送会社でも原価計算は必要ですか?
必要です。保有車両が少ない会社でも、車両ごとの燃料費や人件費、車両維持費を把握することで、採算の悪い運行を発見しやすくなります。
Q3.原価計算はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
月単位で集計する方法が実務上取り組みやすいでしょう。燃料価格や人件費などに大きな変化があった場合には、必要に応じて見直すことをおすすめします。
Q4.原価計算の結果は荷主との運賃交渉に使えますか?
活用できます。燃料費、人件費、車両費、運行距離、待機時間などの資料を整理することで、運賃や料金の見直しを求める際の説明材料になります。
10.まとめ|原価計算は運送会社の経営改善に欠かせない
運送業の原価計算は、単に経費を集計するための作業ではありません。
車両別・取引先別・運行ルート別に採算を把握し、適正な運賃設定や経営改善につなげるための重要な取り組みです。
燃料費や人件費などの上昇が続く中、自社の原価を正確に把握しないまま運送業務を続けていると、知らないうちに利益が減少してしまう可能性があります。
まずは車両ごとの費用と走行距離を整理し、1kmあたりの原価を計算するところから始めてみましょう。
原価を把握することが、運賃交渉や安定した事業運営への第一歩となります。
行政書士福原総合事務所からのご案内
行政書士福原総合事務所では、運送会社様の事業運営に関する各種手続きをサポートしております。
代表は、ドライバー、運行管理者、運送会社役員を経験しており、運送事業の現場と経営の両方を理解したうえで、事業者様に寄り添った対応を心掛けています。
主なサポート内容は次のとおりです。
一般貨物自動車運送事業許可申請
貨物利用運送事業の登録・許可手続き
事業報告書の作成
事業実績報告書の作成
増車・減車などの変更手続き
巡回指導に向けた書類整備・事前対策
運送業の許認可や各種手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考資料・公式情報
国土交通省「トラック運送の原価計算の活用に向けて(手引き)」
https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000333816.pdf国土交通省「標準的な運賃について」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000118.html国土交通省「標準的運賃に係る実態調査結果の公表」(令和8年8月26日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000361.html国土交通省「トラック適正化二法について」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html
※法令・制度の内容は改正される場合があります。記事公開時には最新の国土交通省の公表資料をご確認ください。
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