運送業の適性診断とは?初任・高齢・事故惹起運転者の受診義務を行政書士が解説
運送会社では、運転者の安全運転を確保するために「適性診断」を適切に実施することが重要です。
適性診断という言葉を聞いたことはあっても、
「誰が受けなければいけないの?」
「新人ドライバーはいつ受けるの?」
「65歳以上の運転者はどうなる?」
「事故を起こした場合は?」
「適性診断を受けた後、会社は何をすればいいの?」
など、詳しいルールについては分かりにくい部分もあります。
国土交通省は、貨物自動車運送事業者について、事故惹起運転者・初任運転者・高齢運転者に対する適性診断の受診を定めています。また、診断結果を踏まえて、運行管理者等が運転者に適切な指導を行うことも重要です。
今回は、一般貨物自動車運送事業者が知っておきたい適性診断について、行政書士が分かりやすく解説します。
1.運送業の「適性診断」とは?
適性診断とは、運転者の運転に関する特性を確認し、安全運転に必要な助言や指導につなげるためのものです。
国土交通省によると、適性診断では運転者の「運転のクセ」などをさまざまな測定によって把握し、その特性に応じたアドバイスを行います。
ここで重要なのは、
適性診断は運転者を「合格・不合格」に分けるための試験ではない
ということです。
診断結果を通じて、
「自分にはどのような運転特性があるのか」
「どのような場面で注意が必要なのか」
を運転者自身に理解してもらい、安全運転につなげることが大きな目的です。
そのため、会社側も診断結果を単に保管するだけではなく、その後の安全教育や指導に活用することが重要です。
2.適性診断にはどのような種類がある?
貨物自動車運送事業に関係する適性診断には、主に次のような種類があります。
初任診断
適齢診断
特定診断Ⅰ
特定診断Ⅱ
一般診断
それぞれ対象となる運転者や受診時期が異なります。
特に運送会社が注意したいのは、
初任運転者・高齢運転者・事故惹起運転者
の3つです。
3.初任運転者は「初任診断」が必要
新しく運転者を採用した場合には、適性診断について確認する必要があります。
一般貨物自動車運送事業者において、常時選任するため新たに雇い入れた運転者が、当該事業者のもとで初めて事業用自動車に乗務する場合、過去3年間に初任診断を受診していなければ、初任診断を受けさせる必要があります。
原則として、初めて事業用自動車に乗務する前に受診させます。
やむを得ない事情がある場合には、乗務開始後1か月以内に実施することとされています。
したがって、新人ドライバーを採用した場合は、
「採用した」
だけで終わらせず、
① 初任運転者に該当するか
② 初任診断の受診歴
③ 初任診断の受診時期
④ 特別な指導の実施時期
を確認することが大切です。
4.初任運転者は「特別な指導」も必要
初任運転者については、適性診断だけ確認すればよいわけではありません。
第18記事で解説したように、初任運転者には、一般的な指導・監督とは別に、初任運転者に対する特別な指導を行う必要があります。
国土交通省の指針では、初任運転者について、事業用自動車の安全な運転に必要な知識・技能の程度を把握し、安全運転につなげるため、適性診断の結果なども踏まえたきめ細かな指導を行うことが示されています。
つまり、
初任診断 → 結果の確認 → 特別な指導 → 実際の運行
という流れを意識することが重要です。
5.65歳以上の高齢運転者には「適齢診断」
高齢運転者についても、適性診断が必要です。
貨物自動車運送事業の適齢診断については、
65歳に達した日以後1年以内に1回、その後3年以内ごとに1回
受診させることが定められています。
また、65歳以上の方を新たに運転者として選任する場合にも、受診時期について確認が必要です。
高齢運転者については、単に年齢だけで判断するのではなく、
視力などの身体機能
判断力
反応速度
運転特性
疲労の状況
などを考慮しながら、安全な運転を継続できるよう支援することが重要です。
6.高齢運転者には適性診断後の指導も重要
高齢運転者については、適齢診断を受けさせて終わりではありません。
国土交通省の指針では、適性診断の結果が判明した後、1か月以内に、診断結果を踏まえたきめ細かな指導を行うこととされています。
例えば、
「以前より確認動作が遅くなっていないか」
「バック時の安全確認は十分か」
「夜間運転に不安はないか」
など、診断結果や本人との話し合いを踏まえて、安全運転について具体的に考えることが大切です。
7.事故を起こした運転者には「特定診断」
交通事故を起こした運転者については、事故の内容や過去の事故歴などによって、特定診断Ⅰまたは特定診断Ⅱの対象となる場合があります。
国土交通省の指針では、例えば、
死者または重傷者を生じた事故を起こし、事故前1年間に事故歴がない運転者
軽傷者を生じた事故を起こし、事故前3年間に事故歴がある運転者
死者または重傷者を生じた事故を起こし、事故前1年間にも事故を起こしていた運転者
などについて、それぞれ特定診断Ⅰ・Ⅱの対象が定められています。
対象となる場合には、原則として事故後、再び事業用自動車に乗務する前に受診させる必要があります。
ただし、やむを得ない事情がある場合には、乗務開始後1か月以内に受診させることとされています。
事故が発生した場合には、
事故報告 → 適性診断の要否確認 → 特別な指導 → 再発防止
という流れで対応することが重要です。
適性診断の対象者一覧
| 運転者の区分 | 主な対象者 | 適性診断の種類 | 主な受診時期 |
|---|---|---|---|
| 初任運転者 | その運送会社で初めて事業用自動車に乗務する運転者 | 初任診断 | 原則、初めて乗務する前 |
| 高齢運転者 | 65歳に達した運転者 | 適齢診断 | 65歳に達した日以後1年以内。その後3年以内ごとに1回 |
| 事故惹起運転者 | 一定の死亡・重傷事故、軽傷事故等を起こした運転者 | 特定診断Ⅰ・Ⅱ | 原則、事故後に再び乗務する前 |
| その他の運転者 | 上記の対象者以外 | 一般診断 | 任意 |
※事故惹起運転者については、事故の内容や事故前の事故歴によって「特定診断Ⅰ」または「特定診断Ⅱ」の対象が変わります。 国土交通省
事故惹起運転者の区分
| 区分 | 主な対象 | 診断 |
|---|---|---|
| 事故惹起運転者① | 死亡・重傷事故を起こし、事故前1年間に事故歴がない者 | 特定診断Ⅰ |
| 事故惹起運転者② | 軽傷事故を起こし、事故前3年間に事故歴がある者 | 特定診断Ⅰ |
| 事故惹起運転者③ | 死亡・重傷事故を起こし、事故前1年間にも事故を起こしている者 | 特定診断Ⅱ |
8.「事故を起こした=必ず特定診断」ではない
ここは運送会社が特に注意したいポイントです。
事故が発生したからといって、すべての事故で同じ適性診断を受診するわけではありません。
事故の、
被害の程度
過去の事故歴
事故の発生状況
などによって対象となる区分が異なります。
そのため、事故が発生した場合には、
「事故が起きたから、とりあえず診断を受けさせる」
ではなく、事故内容と過去の事故歴を確認したうえで、必要な対応を判断することが大切です。
9.運転記録証明書等で事故歴を確認する
運送会社が新しく運転者を採用する場合には、その運転者が過去にどのような事故を起こしているかを確認することも重要です。
国土交通省の指針では、新たに雇い入れた運転者について、運転記録証明書等により採用前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当するか確認することが示されています。
つまり採用時には、
「免許を持っているか」だけではなく、「これまでの運転歴に問題がないか」
という視点も必要になります。
特に経験者ドライバーを採用するときは、
「以前の会社でトラックに乗っていたから、すぐ乗務できる」
と判断するのではなく、必要な適性診断や指導について確認しておきましょう。
10.適性診断の結果を会社でどう活用する?
適性診断を実施した後に重要なのが、結果を安全管理に活用することです。
例えば、
「判断・操作について注意が必要」
という結果が出たのであれば、その運転者に対して具体的な安全運転方法を確認します。
また、
「焦りやすい」
「安全確認が不足しやすい」
などの傾向があるのであれば、日々の点呼や安全教育の中でも意識してもらうことができます。
国土交通省も、運行管理者は適性診断の結果に基づき、個々の運転者の運転特性を踏まえた適切な指導を行う必要があるとしています。
11.適性診断の結果を「点呼」とつなげる
適性診断と日々の点呼を別々のものとして扱わないことも重要です。
例えば、適性診断で注意すべき運転特性が確認された場合、
「今日は特に車間距離に注意してください」
「バック時は一度停止して周囲を確認しましょう」
など、具体的な注意喚起につなげることができます。
適性診断の結果を、
診断 → 指導 → 点呼 → 運行 → 振り返り
という流れで活用できれば、単なる「受診義務」ではなく、実際の事故防止につながります。
12.適性診断の結果を教育記録にも反映する
第18記事で解説した安全教育・指導記録とも、適性診断は密接に関係しています。
例えば、ある運転者の適性診断結果から、
「交差点での安全確認を重点的に指導する」
ことになった場合、その後の安全教育で交差点事故防止をテーマとして取り上げることもできます。
このように、
適性診断 → 個別指導 → 安全教育
とつなげることで、より実効性のある安全管理になります。
13.適性診断を受けさせて終わりにしない
運送会社でありがちな問題が、
「適性診断は受けさせているから大丈夫」
と考えてしまうことです。
しかし、適性診断の本来の目的は、受診そのものではありません。
診断結果から運転者自身の特性を理解し、安全な運転につなげることが重要です。
例えば、
よくない管理
「○月○日、適性診断受診」
という記録だけを残して終わる。
望ましい管理
「適性診断受診」
↓
「結果を確認」
↓
「運転者本人と面談」
↓
「注意すべき運転特性を確認」
↓
「具体的な安全運転方法を指導」
↓
「必要に応じて安全教育・点呼で継続指導」
という流れです。
14.巡回指導に備えて確認しておきたいポイント
運送会社では、日頃から適性診断について次の項目を確認しておくと安心です。
適性診断チェックリスト
□ 初任運転者を把握している
□ 初任診断の受診状況を確認している
□ 初任運転者への特別な指導を実施している
□ 65歳以上の運転者を把握している
□ 適齢診断の受診時期を管理している
□ 事故惹起運転者に該当するか確認している
□ 特定診断の対象者を確認している
□ 新規採用者の事故歴を確認している
□ 適性診断の結果を確認している
□ 結果を踏まえた個別指導を行っている
□ 指導内容を記録している
□ 運転者台帳等と情報が一致している
特に、
「誰が対象者なのか分からない」
という状態は避ける必要があります。
15.運転者台帳と適性診断を連動させる
適性診断の管理では、運転者台帳との情報を連動させると管理しやすくなります。
例えば運転者ごとに、
氏名
生年月日
選任年月日
初任診断
適齢診断
特定診断
一般診断
特別な指導
適性診断後の指導
などを確認できるようにしておくと、対象者の把握が容易になります。
運転者台帳については、第9記事でも詳しく解説しています。
適性診断だけを単独で管理するのではなく、運転者台帳・教育記録・点呼記録などと関連付けて管理することをおすすめします。
16.適性診断の管理は「期限管理」が重要
適性診断については、「誰が受けるのか」だけでなく、「いつまでに受けるのか」を管理する必要があります。
例えば高齢運転者の場合、
65歳到達 → 1年以内に適齢診断 → その後3年以内ごと
という管理が必要です。
一方、初任運転者や事故惹起運転者では、乗務との関係で受診時期が重要になります。
そのため、
対象者一覧
次回受診期限
特別指導の実施状況
診断結果の確認状況
などを一覧化しておくと、管理漏れを防ぎやすくなります。
17.適性診断の未実施は行政処分につながる可能性も
適性診断は単なる社内ルールではありません。
国土交通省が公表している行政処分事例では、初任・高齢運転者に対する適性診断受診義務違反や、特定の運転者に対する指導監督義務違反などが違反事項として認定され、行政処分につながった事例があります。
したがって、
「忙しかったから後回しにした」
「前の会社で受けていると思う」
「本人に任せていた」
といった管理は避ける必要があります。
運行管理者や担当者が対象者と期限を把握し、会社として確実に管理することが重要です。
18.適性診断は「安全管理の入口」と考える
適性診断は、それ自体が事故を防いでくれるものではありません。
重要なのは、その結果を会社の安全管理にどう活用するかです。
例えば、
適性診断
↓
運転者の特性を把握
↓
個別指導
↓
安全教育
↓
点呼で継続確認
↓
事故・ヒヤリハットを分析
↓
さらに指導・教育
という流れを作ることで、安全管理の質を高めることができます。
第17記事で解説した事故防止対策や、第18記事の安全教育とも、適性診断は深くつながっています。
19.運送業の適性診断に関するよくある質問
Q1.適性診断はすべてのドライバーが受ける必要がありますか?
国土交通省が受診を求めている特定の運転者は、事故惹起運転者、初任運転者、高齢運転者です。
一般診断は任意とされています。
Q2.初任診断はいつ受ければいいですか?
原則として、その運送会社で初めて事業用自動車に乗務する前に受診させます。
やむを得ない事情がある場合には、乗務開始後1か月以内に実施することとされています。
Q3.65歳になったら毎年適性診断を受けるのですか?
貨物自動車運送事業の高齢運転者については、65歳に達した日以後1年以内に1回、その後3年以内ごとに1回の適齢診断が基本です。
Q4.事故を起こしたら必ず特定診断を受けますか?
事故の内容や過去の事故歴によって対象となる区分が異なります。
死亡・重傷事故や軽傷事故、過去の事故歴などを確認したうえで、特定診断Ⅰ・Ⅱの対象となるか判断する必要があります。
Q5.適性診断の結果は会社が確認する必要がありますか?
はい。
適性診断は受診させるだけではなく、結果を踏まえて運転者に適切な指導を行うことが重要です。
20.まとめ|適性診断は受診後の「指導・活用」が重要
運送業の適性診断は、運転者の運転特性を把握し、安全運転につなげるための重要な仕組みです。
特に運送会社では、
初任運転者
高齢運転者
事故惹起運転者
について、適性診断の対象者と受診時期を正確に把握することが重要です。
そして、適性診断を受けさせるだけではなく、
診断結果を確認する
↓
運転者に説明する
↓
必要な指導を行う
↓
安全教育や点呼に活用する
というところまで実施することが大切です。
「新人ドライバーを採用したけれど、何を確認すればいいか分からない」
「高齢運転者の適性診断の期限を管理できていない」
「事故後の適性診断や指導について確認したい」
「巡回指導に向けて運転者関係の書類を整理したい」
という場合には、早めに現在の管理体制を確認しておきましょう。
行政書士福原総合事務所では運送事業者様をサポートしています
行政書士福原総合事務所では、一般貨物自動車運送事業許可をはじめ、事業報告書・事業実績報告書、各種変更手続き、巡回指導サポートなど、運送事業者様の業務を幅広くサポートしています。
代表者自身が、
ドライバー → 運行管理者 → 運送会社役員 → 行政書士
という運送業の現場経験を持っています。
そのため、単に書類上の内容を見るだけではなく、運送会社の実際の業務を踏まえて、事業者様に寄り添ったサポートを行っています。
「適性診断の管理ができているか確認したい」
「運転者台帳や教育記録を整理したい」
「巡回指導に向けて運行管理体制を確認したい」
という運送事業者様も、お気軽にご相談ください。
関東全域の運送事業者様をサポートしています。
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